南総里見八犬伝

南総里見八犬伝は、江戸時代を代表する文豪の曲亭(滝沢)馬琴(1767~1848)が、江戸時代後期、文化11年(1814)<48才>から天保12年(1848)<75才>まで28年かかって著した、全9輯98巻・106冊に及ぶ、日本の古典文学では最も長く、世界でも有数の長編小説です。

中国の豪傑小説『水滸伝』の影響を色濃く受けた「勧善懲悪」「因果応報」の伝奇小説で、時代を戦国時代に求め、結城合戦以後房総に入って勢力をのばした房総里見氏の歴史を背景に、里見義実の娘伏姫ゆかりの仁義礼智忠信孝悌の霊玉と牡丹のあざを持つ義兄弟八犬士が、里見家の危難を救うために活躍する架空の物語です。

馬琴がこの小説を書くにあたり、大きな力になったのは上総国長者町の篤学の人、中村国香の執筆した『房総志料』でした。八犬伝には富山をはじめ滝田城・犬懸の里・洲崎明神・神余氏・真里谷氏など房総の人でなければ知らない地名・人名が出てきますが、その多くは『房総志料』によるものです。馬琴は一度も房総に足をふみいれたことがありませんでした。

物語は、結城の戦いに敗れた里見義実(よしざね)が安房へ落ちのびる場面からはじまります。やがて滝田城の城主になりましたが、隣国の館山城主安西景連(かげつら)の攻撃にあっていました。窮地の里見義実は愛犬八房に「景連の首をとってきたら伏姫を嫁にやる。」というたわむれの約束をします。八房の働きによって戦いに勝利すると、約束どおり伏姫は八房と富山(とやま)の洞窟にこもって暮らしはじめてしまいました。

数年後、姫の許婚であった金碗大輔(かなまりだいすけ)が、姫を取り戻すために富山にやって来て、八房を撃ち殺しますが、伏姫にも傷を負わせてしまいます。八房の気を受けて懐妊していた伏姫は、身の潔白を証明するため、大輔と父義実の見守るなか自害してしまいました。その時、伏姫が幼いころ役の行者からお守りとして授かっていた護身の数珠から、八つの玉が飛び散ります。

金碗大輔は、出家して丶大法師(ちゅだいほうし)となり、八つの霊玉を探し求める旅に出ることになります。そして仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの霊玉を持った八犬士が関東甲信越各地から登場して活躍することになります。

八犬士たちとめぐり会った丶大法師は、八人を里見義実のもとへ連れて帰り、里見家の家臣となった八犬士は里見家の危難を救うのです。やがて義実の八人の孫娘をそれぞれに娶り、その子供たちに家督を譲って、富山の山中にこもり仙人になったというお話です。

text:金久ひろみ
『房総里見氏』(NPO法人安房文化遺産フォーラム)より抜粋

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